仏学者「米国状況は非常に劇的かも・あまりよくないかも」

※11月末、山内一也先生から50mgの感染の件についてご連絡を頂戴しました。軍の機密研究という点に事実誤認があったこと、50mgは経口ではなく脳内接種であること、5mgで実験が継続中であることなど、および最新情報です。末段にUPさせていただきます。(PC不調などによりUPが遅れ失礼しました)

11月4日、食品安全委員会主催で、
食品に関するリスクコミュニケーション(東京)- BSEと牛肉の安全性 -
http://www.fsc.go.jp/koukan/risk171104/risk-tokyo171104.html
が行われ、行って参りました。(資料は上記参照)
フランスの原子力委員会BSEを研究されていた学者(現在は米国のスクリプス研究所)の、コリーヌ・ラスメザス博士のお話を伺い、質問の時間がありましたので、食品安全委員会に送ってきたけれど「無視」されてしまった数々の情報を直接研究者に質問するチャンス!と思って、以下質問をしてきました。

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1.サルが5gの脳で経口感染した論文のほか、50mgの脳で経口感染した報告が論文にあるが、それらは軍の調査とのことで詳細が公開されていない※(わけではなく、誤解がありました。末段参照)、やはり他の研究者にも情報が共有されていないのか。

2.たとえば感染後6ヶ月して、腸からプリオンが検出された後、扁桃や脳などに発現するまで異常プリオンたんぱく質が消えるが、これは(本日の講演のマウス実験にあったように)血流を通じて移動していると考えていいのか?

3.米国はSRM由来の32万トンの肉骨粉と牛脂を家畜飼料に使い、また、牛に100万トンの鶏糞を与え、そのうちの3割の30万トンが肉骨粉というFDA長官代理の見積もりがある上に(この情報提供にもかかわらず食安委はそれを答申案に反映していない)、鹿などの動物までレンダリングシステムに混入しているようだが、コリーヌ先生はこの米国の状態をどう考えるか?

4.BASE(アミロイドが蓄積する弧発性ヤコブ病の症状に似た新型BSE)および、最近霊長類への感染の論文が出た、米国で大蔓延している狂鹿病(CWD)の最新知見を教えてください。1997年の規制が遵守されず、鶏糞なども通じて鹿などが食物連鎖に混入している米国の状態について、私は英国型でないBSEの発生を心配しているが、コリーヌ先生はどう考えるか?

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1.は回答が長いので最後にUPします。

2.は「研究中」ということで、はっきりした回答はいただけませんでした。

3.米国の飼料管理の無茶苦茶さを、具体的にトン数などで申し上げたわけですが、通訳を通して、コリーヌ先生はこういわれてました。

「ご存知のように、歴史を見て参りますと、たとえばリスク評価はできる、つまりこの肉骨粉がどの国に輸出されたかと、そのへんに不確実性があります。というのは貿易というものは非常にフォローができないんです。ですからとてもいい地理的な絵があって、肉骨粉がこっちにいった、世界中にいった、ということは示すことができます。これは標準としてとりますと、状況は非常に劇的かも知れません。これはあまりいい状況ではないんですけれども。」

「国の国内慣行があります。やり方です。最初のリスク評価が米国で行われました。それも議論を呼びました。今第二の(米国の)リスク評価をやり直しています。えさのやり方の慣行、どう肉骨粉が処理されているか、輸入された肉骨粉がどうなっているか、近いうちに公表できるでしょう。」

「積極的に状況を検査しないとわからない。テストをしてみないとわからない。真の米国のBSEの発症がどうなっていたか、真実はわかりません。

「状況はわからないけれど、保護はあります。たとえばテストをする、あるいはすべての個体を○○するとか、適切な形でSRM除去をやっていくことが重要です。」(要旨)

4.コリーヌ先生は「新型の(弧発性に似た)BASEは要注意」とのこと。そして北米の狂鹿病、CWDは研究者は、皆憂慮されているとのこと。「反芻動物は反芻動物に食べさせるべきではありません」

参考:狂鹿病問題:鹿ハンターからヤコブ病26名発生 そして鹿肉骨粉や油脂・エキスの行方は?

なお、飼料としての牛脂の危険性についてはコリーヌ先生も触れてました。 日本の食品安全委員会は、「現場の飼料専門家」が牛脂の危険性を調査会で指摘したにもかかわらず、米国内でまったく規制のない牛脂の増幅を一切無視した答申案を出していますが。


詰まるところ、こんな肉ますます食べられない〜!と思った意見交換会でございました。が、今までの傾向と対策から、これらリスコミの内容が反映されることは、やっぱりないんでしょうか。質問の時間は1時間とたっぷりあったんですが、最後に時間が余ったときに、寺田委員長にこう質問してきたらよかったです。しまった。
「これらリスコミで出た意見や新しい知見は食品安全委員会で今後どう反映されるのでしょうか?」


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1.の回答について
笹山登生さんの掲示板【2082】以降に書き込んだ報告のコピーで申し訳ございませんが、質問と回答などを。。。
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(サルが経口感染した脳)5gの件とは別件の話で、今年2月19日の毎日新聞に50mgで感染の記事が掲載されたので、確認したところ、山内先生からの情報とお教えいただいたので、山内先生に伺ったところ、2082にご紹介した論文の方に、50mgの脳を食べさせて感染した話が出ていて、「フランスの軍の研究で」(訂正:末段参照)、とのことである数字について伺ったのですが、「そんな実験はない」といわれてしまいました。論文には50mgの数字は出てるのですが?(^^;?
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=15733719
http://www.vegsource.com/talk/madcow/messages/93984.html

(余談)しかし、5gの脳をバナナに入れて?食べさせて、2頭中1頭が感染発病したという現実があるのに、なんで1.5kgの脳を食べないと感染しないという話になるのか、数字って難しいですね。種の壁の話が出たので「インドのヒトの遺体から感染したという説もあるがその場合は種の壁もないのではないかと思う、クールーの潜伏期間は50年にのぼる例もあるし11000人の感染者?のその後を見守らないと。その間はとても飼料管理の無茶苦茶な牛なんて食べられません。」などと発言してしまいました。

コリーヌさんのデータ予測?によると、死者は500人?、不顕性の(症状のない)感染者が11000人?いるのではないか、という数字が出ていました。
コリーヌ先生の資料その4より
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笹山さんから頂戴した情報

Corinne Ida Lasmézasも参加したフランス原子力庁BSE研究チームの論文「Risk of oral infection with bovine spongiform encephalopathy agent in primates」の中で言及されている、この部分で、引用された論文のことですね。
「The accuracy of estimates of the oral ID50 for man will not be improved until completion, several years from now, of a large dose-response European study (QLK1-2002-01096) in macaques, in which the minimum dose is 50 mg. However, because similar inocula were used in both the cattle and macaque studies,6 a tentative comparison can be made between the efficiency of oral infection in cattle and that in primates. On this basis, a factor of 720 could be considered as the range of magnitude of a bovine-to-primate species barrier for oral BSE infection (70 primates infected compared with 490 or 1400 cows,
with a similar dose).」

これ「"Transmission of BSE to non-human primates". MOTZKUS D, SCHULZ-SCHAEFFER W, STUKE A, HUNSMANN G. The First International Conference of the European Network of Excellence NeuroPrion, Paris, France, May 24-28.」
http://www.dpz.gwdg.de/virol/web-viro/poster/Paris_2004_Motzkus.pdf
が、当の論文のようです。

ただし、ここでは、はっきり「BSEに感染した牛から採ったホモジェネートした脳を50mgマカクザルに摂種』とかいてありますよ。
最後の所に『コリーヌ・サスメザス博士の協力に感謝』とも書いてありますね。

■山内一也先生からいただいた情報
追加訂正
山内一也先生からのコメントと情報です。
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Lasmezasの講演会の記事で、50 mgの実験について、私の話として「フランスの軍の研究でデータの詳細は機密で公開してもらえないのだが、数値だけが公開されている」という内容が紹介されているのに気がつきました。これは、プリオン専門調査会終了後にあなたから質問された時の会話にもとづくものと思いますが、そのような話はしていませんので、訂正させていただきます。

私の話は、50 mgの出典がLancetにもとづくものかというご質問にイエスと答えたこと、この実験の詳細について問い合わせているのだが、まだ返事がもらえていないこと、Lasmezasの所属する原子力研究所が厳しい警備下の軍の施設内にあることの3点ではなかったかと思います。軍での機密研究といったことは申し上げていません。なお、この研究所には1996年に座長の吉川先生と訪問したことがあります。獣医学会HPなどに連載されている私の講座、人獣共通感染症の第49回(1997年1月15日)に載っていますのでご覧ください。

後で明らかになったのですが、これはあなたのブログでも紹介されているドイツ霊長類センターでの実験でした。その内容は50 mgを脳内接種したもので、経口接種ではありませんでした。もっとも、Lasmezasの論文では、人への経口投与量の推定の議論の中で50 mgを取り上げているので、当然、経口投与と考えたのです。しかし、50 mgの成績は脳内接種なので、適切な議論とは思えません。

サルへの経口接種の実験は現在、原子力研究所、ドイツ霊長類センター、ドイツ・パウル・エールリッヒ研究所、イタリア・衛生研究所で進行中で、結果が出るのはまだ大分先のようです。この実験については多分、Lasmezasが話されたものと思いますが、もっとも少ない投与量は5マイクログラムで、10年間観察の予定です。

別の話ですが、科学(岩波書店)の12月号にプリオン専門調査会での議論の経緯を書きました。ご覧いただければ幸いです。もっとも、大部分をヨーロッパ滞在中に大急ぎで書いたためもあって、3カ所に誤りがありました。第1は、中間とりまとめの年月が2004年でなく、2003年9月になっていたこと、第2、第3はリスクコミュニケーションの項で、3つの諮問としてしまったこと(中間とりまとめは諮問にもとづくものではありません)、およびトランス・サイエンスに研究者(科学者の方が適切な表現です)と消費者がともに関わるべきとしたことです。ご参考まで。

岩波書店:科学 12月号(11月25日発売)
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/